2015.2.21(土)
シアターイメージフォーラム渋谷
『シュバンクマイエル映画祭2015』初日、「アリス」上映後のトークショウの全文です。
出演:ペトル・ホリー(チェコ蔵代表) = P ヴィヴィアン佐藤 = V
V:私はいちファンとしてヤン様、ヨン様じゃなくてヤン様のファンなんですけれども(笑)、ホリーさんは監督が来日する時にはいつもアテンドして色々なところに連れて行かれたり通訳されているのですが。今回、映画祭やトークショーの情報を例えばFacebookなどにアップすると「学生の時に観ました」とか「懐かしいです」というような返事が返ってきます。
P:意外な方が観て下さっているみたいですね。
V:日本の、特に女性にとって、ヤン・シュヴァンクマイエルというのがチェコの日本とは違った国の作家というより「ソウル作家」というか、自分達の心の作家みたいな感じがあるように思えます。
P:本人に言うと、びっくりすると思います。
V:チェコとは捉えられ方が違うような気がします。
P:(チェコでは)色々いる監督の1人ですから。好きな人は好きですけれど。
V:チェコで大きな特集が組まれたりはするのですか?
P:毎年6月末にカルロヴィ・ヴァリという温泉の町で国際映画祭がありまして、数年前にヤン・シュヴァンクマイエルは映画貢献賞というのを受賞されて、その時に「外に出たら僕は知らない人に挨拶されてしまった。初めてのことだ」(笑)と言っていましたので。
アート系のシネマクラブや映画館では上映されますし、長篇の新作を撮った時に、街の中心地、例えばプラハの有名な映画館で上映があったりはしますが、それくらいですよね。
V:シュヴァンクマイエル監督のおうちが、個人博物館みたいなのですよね?
P:そうですね。プラハ城の近くです。ギャラリー・ガンブラというのがありまして。シュヴァンクマイエルさんが60年代に購入した物件で、プラハの中でも非常に古い一画です。それもまた気紛れなことに開いてたり、閉まってたり。よく「いつ開いているのですか?」と聞かれますが「知りません」って、監督次第で。
V:私の周りの日本人の女の子達も結構、行っている人がおります。
P:私もプラハに帰省する時にご挨拶とかに行きますけれど、いつも誰か周囲にいます。
V:出待ちで。
P:建物にはバルコニーがあって、その上に大きな、(亡くなった奥さんの)エヴァさんと作られたオブジェがあるので、判りやすいですけど、最近はいっつもドアが閉まっているらしいですね。
V:行って開いていればラッキーにも見れる。
P:入ると、あ、監督いた。ということになるのですが。御年、今年81ですから。
V:でもこれからも新作があるそうですよね。
P:新作は今、カレルとヨゼフ・チャペックという劇作家の兄弟がいまして、(日本でも)築地小劇場とかで戦前、上演された作家で、『虫の生活』というお芝居がありまして、それを題材に今度、映画を撮るという嬉しい朗報が。
V:楽しみですよね。81歳というと昭和だったら9年ですか?
P:西暦で1934年ですね。でも毎日サプリメントとかいっぱい飲んでいるので。朝鮮人参とか(笑)。
V:その世代の監督やアーティストは元気ですよね。去年、アレハンドロ・ホドロフスキー監督が来日しましたけれど、彼は86歳。奥さんは40歳。全裸でインタビュー受けた映像がありましたからね(笑)。
P:本当に皆さん元気ですね。
V:日本でも昭和一ケタのアーティストとか元気じゃないですか(笑)。
P:会うと本当に全く年を感じないし、羨ましい。
V:何回も日本に来て、ラフォーレでも展覧会をやったり。
P:日本好きで有名でもあります。本当に深いところで、例えば、お芝居でも歌舞伎ですとか、人形浄瑠璃が好きな方で、(来日の度に)毎回、観たがっています。
V:普段、どういう方なのですか?
P:中華料理好きな方ですね(笑)。四川料理が大好きで。(2011年の)震災の年に2回、来て下さって、2回とも10日間、昼・夜は、中華料理か韓国料理(笑)。
V:ホリーさんは(辛くて)胃がもたれたって言ってましたよね。私は「ぬいぐるみ人間」って監督に呼ばれているのでしたよね(笑)。
P:歌舞伎でもエロ・グロ・ナンセンスが好きな方で、最初に通訳したのが(2001年の)9.11の時で『オテサーネク』の来日の時でしたが、染五郎さんの『女殺し油地獄』を歌舞伎座で一緒に観て、始まる前にちょっと解説をさせていただいて「油の場面で、みんな油まみれになる」と話したら、「いつ油が出るの?」と隣で聞いきて、それしか観たがらないみたいな(笑)。殺しの場を観たがるのですね。
あと、東京に来ると必ず、例の剥製(笑)。「私の動物たち」と監督は呼んでいます。
(註:『アリス』や『自然の歴史(組曲)』でもよく剥製が登場し、シュヴァンクマイエル氏の展覧会では剥製を使ったオブジェ作品も多数、展示される。2001年の来日で、ホリー氏が案内した古物商がお気に入り)
V:うちにも実は熊の剥製が三体あるのですよ。場所をとってしょうがないのですけど(笑)。売りたくて。外国の方が買おうとした時があったのですが、ワシントン条約で持ち運べないみたいです。
P:監督が日本で買われたセンザンコウとか、新作にも出るのじゃないですかね。
V:今回の映画祭の初日・1回目の上映は『アリス』でしたが、『アリス』は圧倒的にシュヴァンクマイエルの作品の中でも人気があって、皆さん思い入れがあるみたいですよね。この作品は珍しく英語ですよね?
P:私が(チェコで)観たのは、チェコ語です。製作が(チェコではなく)外国なので、英語にアフレコしたものが配給されているようです。
V:フライヤーでも『アリス』が表に使われていて、かわいいイメージですが、観るとやっぱり「シュヴァンクマイエル」ですね(笑)。
P:「シュヴァンクマイエル」ですね。キャロル(の原作)と違うのは、台詞がないというのが一つ。原作はアリスが喋ってばっかりですが、監督は、言葉より、雑音、最初、服を手で払っている音とか、そっちの方を重視しています。
V:原作では(チシャ)猫が出てきたりしますよね。
P:余計なものは外す。
V:監督にとっての余計なものね(笑)。
P:『アリス』は久しぶりにスクリーンで観ましたが、いいですね。
V:ここ(シアター・イメージフォーラム)で上映した『ひなぎく』も同じですが、DVDを持っていても、レンタルショップに並んでいても、映画館で観たい。好きな映画はDVDで買うこともあるのだけれど、買ったからっていって、映画を理解したことにならないじゃないですか。全く別のことなのですよね。だから「映画を映画館で観る」という「経験」をする。
P:映画館の魔力というのでしょうか。
V:例えば大学時代に授業で観たとか、その時の思い出があるとか、今日もわざわざ午前中から来て並んで観たとか、そういう唯一無二の「経験」なのですよね。
今日の映画もね「ザ・シュヴァンクマイエル」って思いますよね、後半、特にね(笑)。(アリス役の)女の子、女優も、よくつき合ってましたよね、この撮影に(笑)。
P:大変だったと思いますよ。彼は厳しいらしいので。特に細部に拘っているので。女の子の口は、アップの時は、別の人の口です。女の子は全体的にいいのだけど、あの口は気に喰わないって言って(笑)。「君じゃなくて、違う人だよ」って言われて、(女の子が)泣き出したり(笑)。
V:女の子はとてもラブリーな感じですが、映画的にすごくよく出来ていますよね。語り部と主人公を同じ人が やっている。構造が複雑になっているのですよ。ゴダールも同じ構造のものがありますよね。
P:斬新ですよね。
V:ラフォーレの展覧会の時、今回の映画祭では上映されない映画『ファウスト』の大きい人形のオブジェがいっぱいありましたよね。あれ、私、怖くなっちゃって、サタニズムだと思いました。
P:サタニズムというか、ヨーロッパでは「ファウスト伝説」というのがあって、ゲーテが『ファウスト』を書く前に、人形劇でもって題材があってチェコでも上演されていた。だから私達が観る場合「ああ、子供の時、人形劇で観たな〜」という感じで。サタニズムというより、何と言うのでしょうかね、黒魔術。まあ、一緒ですけどもね(笑)。
V:私は好きなのですけども(笑)、あれをラフォーレでやっているというのが凄いな~って思って。で、ゴスロリっ子たちが普通に見ているっていうのが怖いなって(笑)。
P:監督は非常にそれをいつも驚いています。大きなイエス・キリストの人形もありましたよね、釘付けの。フェティッシュというか斬新なね。
V:斬新というか伝統的なね。シュールレアリズムのね。
P:そうです。何よりもまず、監督はシュールレアリズムの系統で、チェコでは第三世代ですね。(シュールレアリズムは)フランスからヨーロッパにずっと広がりまして。
V:アンドレ・ブルトンとか。日本ではシュールレアリズムっていうと、変わったものとか、潜在意識とか、夢判断とかの側面で捉えられるけど、元々はアナーキスト(無政府主義者)の傾向が強いですよね。
P:シュールレアリズムは芸術ではないです。
V:政治運動なのですよね。ヤン様はどうなのですか?
P:好きだからやっているだけで、あまり政治とは関わらないし。社会主義の時代には、幾つかの映画がお蔵入りになったりしましたが、それは「検閲機関の勝手な解釈だ」って本人はいつも言っています。それだけ人間の想像力は素晴らしいということで。
V:私達、去年から、シュヴァンクマイエルさんが美術を担当している映画を自主上映しているのですけど、あれは70年代の作品ですか?
P:そうですね。ちょうど(監督が)自作の映画を(検閲による判断で)政治的に撮れなかった時期で、収入がないと生きていけないので、周りの仲間達が監督に美術を頼んだりして、(リプスキー監督の)『カルパテ城の謎』とか『アデラ』に関わって。それを(ヴィヴィアンさんと)一緒に上映させていただいて。
V:監督と、エヴァさんの関わった作品もね。
P:亡き妻のエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーさんですね。彼女は画家で非常に監督にとって大事なのですよ、作品を創っていく過程の中で。
V:展覧会もエヴァさんとの二人展なのですよね。
P:それは監督のたっての願いで、多分、最初にやった葉山(神奈川県立美術館で2005年に開催)よりラフォーレ(原宿のラフォーレミュージアムで2007年と2011年に開催)の方がエヴァさんの作品の分量が多かったと思います。非常にあの方は、魔女、いい意味で魔女でしたね。
V:う〜ん、ミューズでもあり。
P:(エヴァさんが2005年に)亡くなられて、監督は大丈夫かなと思った時に、また春が来た。新しいパートナーがいるのですけど。
V:モテモテですね。
P:そうですね。すごく若返りましたよ。眼鏡もいつもおじさんぽい大きな眼鏡をしてたのが、突然、赤いフレームの眼鏡になってたり(笑)。
V:新作でも来日して欲しいですよね。
P:今、向こうで資金集めに苦労しているらしいのですけど。本当に来ていただきたいですね。今度の展覧会も浅草橋で3/7からシュヴァンクマイエル展をパラボリカ・ビスというところでやりまして。
(註:シュヴァンクマイエル展は5/11で開催終了。秋頃、再展示の計画もあり)
V:そこでは作品も売っているそうですね。
P:そうですね。映画の資金集めということで、作品を売ってもいいということで、買っていただけます。
会場からの質問:アリスのシーンで机が開いて異次元に入っていくというと、私達日本人にとっては『ドラえもん』が思い浮かぶのですが、日本のマンガは監督はご覧になっていますか?
P:当時(のチェコ)は、恐らく日本のマンガは(チェコには)ないです。今も監督は見ていないと思います。机の引き出しに入る場面は、チェコでは70年代のカッパの映画がありまして、洗面所にすっぽり入る場面があって、全く同じような特撮です。
会場からの質問:アリスがインクを飲んだり木屑を食べたりしていますが、あれは本物ですか?
P:恐らく飲んでいるインクは本物ではないですけれども、(インク瓶の中に)指を差し入れてインクが取れなくなるのは本物で、舐めるシーンでは別の液体を使っていると思います。本物だったら大変です(笑)。余談ですが、クッキーはチェコの結婚式に振る舞われるものです。